重層でボリュームのある味。お酒は、単に「辛口」「甘口」だけでは表現できない、一口でこんなにドラマチックな味や香りの変化を見せる日本酒もあるんですね。
日本酒の芸術作品といるこの「熊野のしずく」は、100%全力で向かい合うべきお酒です。
どれだけの手間と時間をかけて、「おいしさ」だけを搾り取ったお酒なのだろう……
(本文より)
グルメライターの猫田しげるさんに、山形の極みシリーズ「純米大吟醸雫酒 熊野のしずく」を、試飲いただきました。日本酒のレポートは、同じ山形のお酒「龍龍龍龍(てつ)」以来となります。さて、今回はどんなレポートを届けてくれるのでしょうか?さっそくご覧ください!
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こんにちは。グルメライターの猫田しげるです。
なんと、山形の蔵元「東の麓酒造」さんからすごいお酒が出たというじゃないですか!
以前は、幻の酒米といわれる「愛山」を40%まで精米した「龍龍龍龍(てつ)」というお酒を試飲レポートさせていただきました。正直、普段あまり高級なお酒を飲まない私ですら「米を極限まで磨いた日本酒とはこんなにおいしいのか」と衝撃を受けたお酒です。
その東の麓酒造さんが、構想から1年を経てようやく世に出したお酒というから、これは期待しないわけがありません。
米は山形県が大吟醸用に開発した酒米「雪女神」。
大吟醸用に県が開発するとは、さすがお酒王国山形です。
雪女神は、県外産の「山田錦」に頼らず良質のお酒造りができるよう、「出羽の里」と「蔵の華」を交配した新品種。大粒の割に中心の心白が小さく、深く削っても割れにくいのが特徴。タンパクが少ないため、雑味のないすっきりした味に仕上がるそうです。
この「削っても割れにくい」のが重要ですね。酒米は外側を削って芯のおいしい部分をいかに残すかが味の決め手ともいえるからです。
その雪女神を 40%まで精米し、米の中心部分だけをぜいたくに使った大吟醸酒が「純米大吟醸雫酒 熊野のしずく」。なぜ熊野?と思いますが、これは東の麓酒造の膝元である南陽市に熊野大社があることから、地元を鎮守する神様に敬意の念を込めたネーミングなのですね。
やはりリンベル、おしゃれな木箱です。
パッケージデザインは東北芸術工科大学教授でデザイナーの中山ダイスケさんが手がけたとのこと、ここにも地元のアートが生きています。
蓋を開けた時、表現がおかしいかもしれませんがダークチョコレートのような香りが漂いました。
甘やかでありながら、深みのある香りとでもいうのでしょうか。
……と、突然ですが、ここで懺悔をしたいと思います。
撮影時は通常、「開封前の商品&中身」を一緒に並べて撮ることが多いのですが、「熊野のしずく」の蓋に貼られた「純米大吟醸」のラベルは、一度はがすと元どおりにできないもの。
考えあぐねた私は、「グラスに注ぐのは水でもわからないかな……」などとよこしまなことを考えてしまいました。
しかし、実際に熊野のしずくの色を見てみると、「明らかに水とは違う色」なのです。
質感も違います。とろんと粘度もあり、有機的な「味わい」を詰め込んだような、一見して旨みが凝縮された液体であることがわかる黄金色です。
ごくっと喉が鳴ります。見るだけでおいしいお酒と出合ったのは初めてです。
これはズルをするわけにはいかない、と、己を恥じるとともに、やはり上質なものは外見にもすごみがにじみ出るのだと恐れ入ったのでした。
さて、前置きが長くなりましたが、まずはよく冷やしていただいてみます。
口に含むと、最初はかなりの甘みを舌先に感じます。これは甘口なのかなと思っていると、次にフルーティーな香りが鼻を抜けます。メロンやラ・フランスのような、糖度の高い果実を鼻先で嗅いでいるような感覚です。
そして来るのがシャープな後口。甘口から一転、お酒本来の端麗な味わいが舌を包み、そのめまぐるしい変化に驚きます。
重層でボリュームのある味。お酒は、単に「辛口」「甘口」だけでは表現できない、一口でこんなにドラマチックな味や香りの変化を見せる日本酒もあるんですね。
このお酒は料理とともに楽しむというより、食前酒に向いています。なぜなら、お酒そのものの味わいをしっかりと感じたいから。
「龍龍龍龍(てつ)」のノウハウを生かした「しずく取り」という製法で、木綿の酒袋にもろみを入れて天井から吊るし、ぽたぽたと自然に落ちるしずくだけを集めることで、雑味を完全に取り除いた究極のお酒。まさに日本酒の芸術作品といるこの「熊野のしずく」は、100%全力で向かい合うべきお酒です。
おつまみと一緒にいただくなら、漬物や蒲鉾など、シンプルな味の肴が良いでしょう。
そしてちょっと意外ですが、カルボナーラパスタなど、どっしりした洋食の食前酒にするのもオススメです。フルーティーなので白ワインのようにキリッと料理の味を締め、後口を爽やかにしてくれます。
1本1万円の日本酒。高い贈り物をする時、お金に関してシビアな私としては「本当に相手がこの価値をわかってくれるのだろうか」などと心配してしまうのですが、「熊野のしずく」は、まず色から違う。1滴でも指にふれた時の感触すら違う。
どれだけの手間と時間をかけて、「おいしさ」だけを搾り取ったお酒なのだろう……と、気の遠くなるような地道な工程を想像させるような、濃密な“しずく”なのでした。
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いかがでしたか?しずく取りという特別な製法で作られた「熊野のしずく」のこだわりとおいしさを、猫田さんは香り、見た目、味と、すべての面でしっかりと感じ取っていただけたようです。「限定300本のみ」と希少性の高い、リンベルオリジナル商品であるこの「熊野のしずく」は、誰にでもこだわりが伝わる逸品です。贈り物はもちろん、ぜひご自身でも味わってみてくださいね。
猫田しげる
食関係の編集ライター。タウン誌、グルメ情報誌、レシピ本、新聞の地域情報版などの媒体で15年以上取材執筆。美味しいものからちょっと変わったものまで、食に関するあらゆることを愛し、日々発信中。